「心ここにあらず」の状態
オウム返しをする人の心理として「心ここにあらず」というパターンも考えられます。他のことを考えながら会話をしているので、まともな返事ができずにオウム返しをしてしまうパターンです。
このパターンは、男女の会話がすれ違ってしまう場合に多く見受けられます。
男性が会話に意味やオチを求めるのに対し、女性は会話そのものを楽しもうとする傾向があります。女性の長話に付き合わされる男性は、話のオチが見えずに上の空になってしまいがちです。
女性との会話に対して上の空になった男性は、違うことを考え始めます。すると、女性の言うことをオウム返しに繰り返すだけの生返事をするようになってしまうのです。
たとえば、夕食の席での夫婦の会話について考えてみましょう。子供が通う学校のPTA会合に出てきた奥さんが、旦那さんに対して愚痴を言っているとします。
奥さんは、頭に浮かんだ愚痴を次々と口にします。
「無理やり役員にさせられちゃって困ったわ」「誰も意見を言ってくれないから会議が終わらないのよ」
聞いている旦那さんは、どんなアドバイスをしようか考えながら聞いています。奥さんの話を、悩みごとの相談だと思って聞いているのです。
しかし、奥さんは相談がしたいのではありません。PTA会合が大変だったという気持ちに共感してもらいたくて話をしているのです。
一方の旦那さんは、何の相談なのかわからないので戸惑います。そのうち、話を聞く気を失ってしまいます。
奥さん「担任の先生も全然頼りないのよね」
旦那さん「おー、頼りないのか」
奥さん「もう少しリーダーシップがあったらいいのに」
旦那さん「おー、リーダーシップか」
結局、奥さんが言ったことをそのまま繰り返すだけの、オウム返しの返事になっていました。奥さんとしては旦那さんが話を聞いていると思えないので、不満に感じてしまいます。
対処法② 意見を詳しく聞いてみる
「心ここにあらず」の状態でオウム返しの返事をしている人は、会話に対して受け身になりきっています。会話を成立させるには、受け身の態度を変えてもらう必要があります。
だからといって、受け身の態度でいることを非難するだけでは喧嘩になるだけです。もっと穏やかな対処法の方が望ましいでしょう。
そこで、どう思っているのか意見を詳しく聞いてみればよいのです。意見を聞かれると話す内容をしっかり考えなければならないので、自然と受け身の態度ではなくなります。
先ほどの夫婦の会話の例で考えてみましょう。
オウム返しの返事しかしなくなった旦那さんに対して、こう問いかけてみるのです。
「担任の先生の態度、あなたはどう思う?」
具体的な質問をしてもらったことで、旦那さんとしても会話がしやすくなります。
「そうだな。担任なんだから、もっとみんなを引っ張ってほしいよね」
というように、しっかり返事をしてくれるようになります。
すると、奥さんも話を聞いてもらった実感を得ることができます。夫婦は楽しく会話を続けることができるでしょう。
親身になって会話しようとしてくれている
ここまで見てきたオウム返しは、会話から逃げようとする心理から行われるものでした。一方で、「より親身になって会話をしたい」という心理から行われるオウム返しもあります。
そもそもオウム返しには、会話テクニックとしての一面もあります。会話相手の言葉を繰り返すことによって、「あなたの話をちゃんと聞いてますよ」というメッセージを伝えるのです。
また、オウム返しといっても機械的に繰り返すだけではありません。会話相手の言葉をかみ砕いて、少し違う言い方にして繰り返すとより効果的です。
この場合のオウム返しは、会話相手に安心感をもたらします。話を聞いてくれているという信頼感が生まれるので、より心を開いて充実した会話ができるようになります。
たとえば、生徒の悩みを聞く学校の先生を例に考えてみましょう。高校受験を控えた中学生が、志望校に合格できるか不安になって相談してきたとします。
生徒「僕が志望校に合格するには、どの教科をいちばん頑張ったらいいですか?」
先生「勉強のやり方が間違ってないか不安になってるんだね」
「どの教科を頑張るべきか」という生徒の質問をただ繰り返すのではなく、質問の背後にある「勉強のやり方は正しいのか」という不安を読み取って代弁しています。これもオウム返しの一種です。
不安を先生に代弁してもらったことで、生徒は安心して心を開くことができるのです。
対処法③ 感謝の気持ちを伝える
親身になって会話しようとしてくれていることに対して、感謝の気持ちをしっかり伝えることが大切です。安心して会話できているということを伝えてあげるのです。
なぜなら、親身になって話を聞こうとしている側も不安になっているからです。「あなたの話をちゃんと聞いてますよ」というメッセージが伝わっているか心配なのです。
先ほどの生徒と先生の例で考えてみましょう。「どの教科を頑張るべきか」という生徒の質問を聞いた先生は、質問の背後に「勉強のやり方が合っているのか」という不安があると考えました。
ただ、生徒の不安を正しく読み取れているか確信を持てずにいます。生徒の心を開くことができたのか確かめるため、生徒のリアクションを求めているのです。
そこで、生徒は先生に対して感謝の気持ちをしっかり伝えるべきです。心を開いたことを先生に伝えることで、先生の側も安心して生徒の悩みに答えられるようになるのです。
会話をしている双方が心を開いて向き合うことで、コミュニケーションはより充実したものとなります。親身になってくれている相手に対しては、感謝の気持ちを伝えましょう。
業務上の会話についてミスを防ごうとしている
業務上の会話についてオウム返しをする人は、聞き間違いによるミスを防ごうとしています。
聞き間違いによって指示の内容を誤解したまま業務を進めると、大きなミスにつながりかねないからです。
そのため慎重な人の場合、業務上の会話をする際にはしつこいくらいオウム返しをします。重要な点の聞き間違いがないように、しっかりと復唱をするのです。
たとえば、本社と支社の間で電話連絡する場合を例に考えてみましょう。対面で話すわけではないので、すれ違いがないよう十分に気を付けて電話連絡を行う必要があります。
本社「日次のデータ送信が完了したのでご確認ください。なお営業1課と3課のデータは後程お送りします」
支社「営業1課と3課のデータは後程お送りいただけるということですね。承知しました」
支社の担当者が「営業1課と3課のデータが後回しになる」という点を復唱しています。どの課のデータが後回しになるか聞き間違うことを防ごうとしているのです。
ただ、何もかも復唱すれば良いわけではありません。重要なポイントに絞ってオウム返しをしなければなりません。会話のすべてを復唱していたら、仕事がいっこうにはかどりません。
対処法④ 「分からなかったらもう一度聞いて!」とアドバイスする
適切なオウム返しをしてくれる人とは、安心して仕事をすることができます。しかし過剰に復唱する人には、やりすぎであることを気づいてもらう必要があります。
先ほどの例は電話連絡でしたが、今度は対面でのやり取りについて考えてみましょう。上司と部下の間で、次のような会話がされたとします。
上司「明日の会議で使うデータをメールしたから、手が空いたときに印刷しておいてね」
部下「明日の会議で使うデータですね。わかりました」
たしかに丁寧な返答ではありますが、若干オウム返しのやりすぎという感じもします。ここまで復唱する必要はないでしょう。やりすぎだということを部下に気づいてほしいところです。
部下がしつこく復唱しているのは、ミスをしないよう必死になっているからです。もっと肩の力を抜いてもらえばよいのです。
そこで、次のようにアドバイスしてみましょう。
上司「そんなに復唱しなくていいよ。もし分からなくなったらもう一度聞いてね」
「聞き直してもいいんだ」と安心した部下は、適度なペースでオウム返しをしてくれるようになるはずです。